monbasira

             写真=鮫島・門柱 無数の海鳥が舞う静寂境
     
      ドリームランド

 人間の欲望には際限がない。
 宇治群島がダイナマイト騒ぎで、思ったほども釣れないとなると、どこか、もっとよく釣れるところがないだろうか、ということになる。
 船長に訊くと、「ある」という。どこ?″と尋ねると、「草垣島」という返事、「よし、そこへ行こう」ということになった。
 宇治群鳥から更に4時間、東シナ海のまっただ中に、その島はある。
 夜中に宇治を発ったので、そこに着いたのは、ほのかな夜明け、逆光に輝く水平線の彼方に、“絶海の孤島”の形容そのままに、白い燈台のある草垣島が、小さな鳥嶼群を従えて、まるでオトギの国の王者の如く、黒く高く聳えている。
 船が近づくにつれて、私はまるで夢の国に踏み入ったような錯覚に捉われだしてきた。
 それは、そこが、私の空想も及ばない、美しさと、壮大さと、奇怪さに満ちあふれていたからだ。
 草垣島のひきいる一群の島嶼は、私のこれまでに見たものとは、全く趣むきが異なっていた。まるで海の中から生えたように、高さ二、三百メートルもある奇岩怪石が、或いはゴジラの如く、或いはアンギラスの如く、突丌(とつこつ)とした垂直の壁面を見せて、突き立っている。そしてそのまわりを、名も知れぬ海鳥が、奇声を発しながら無数に飛びまわっている。
 私は、自分がまるでマイク・ネルソンのような冒険家になったような気持ちがして口笛を吹きながら、うっとりとまわりに見とれていた。と、突然、何千とも知れぬイルカの大群が、私の目の前を、しぶきを上げて走って行くではないか。
 私は、このときほど、カメラを持ってこなかったことを、残念に思ったことはない。
 食糧の欠乏で、僅か一日だけで、そこを去ったが、ライトブルーの素晴しい海の色や、穴子や陣笠やフジツボのびっしり着いた、ホレボレするような独立岩礁を見ていると、こここそ、イシダイの発祥の地であり、磯釣り最終の地、メッカである、との確信を持つに至った。
 獲物は、イシダイ1、タマミ1、クエ1にとどまったが、それでもイシダイで竿が立たずに力負けでバラしたのが三枚もあり、船長の話でも、ときに三貫クラスの超大物が上がるという。
 機会があれば、是非もう一度行ってみたい、秘境“草垣島”である。(完)